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新しい歴史教科書をつくる会道東支部の意見への反論

教育委員会への権限集中

  教師の意見を尊重すべき
  公教育への政治権力の不介入こそ肝要

 4月18日付北海道新聞朝刊に掲載された新しい歴史教科書をつくる会道東支部の熊原嗣郎事務局長の教科書採択についての意見に対し反論する。
 北海道新聞社の記事(3月28日付朝刊)は,教科書採択の仕組みについて「2001年に一変し,『つくる会』などの請願の動きによって教育委員会に権限を集中させたことが,政治介入を招きやすくした側面がある」と控えめに指摘し ている。しかし,『つくる会』の請願の目的そのものが,政治介入しやすくすることにあったことは,熊原氏が「国政の一環として行われる公教育に対して,国家や地方自治体の積極的関与が期待されている」と述べていることにも表れている。
 教育基本法10条1項は「教育は,不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接責任を負って行われるべきものである。」と規定され,2項は「教育行政はこの自覚のもとに,教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。」と規定されているが,これは,「戦前のわが国の教育が,国家による強い支配の下で形式的,画一的に流れ,時に軍国主義的又は極端な国家主義的傾向を帯びる面があったことに対する反省によるものであり,教育に対する権力的介入,特に行政権力によるそれを警戒し,これに対して抑制的態度を表明したものである。国の関与は教育における機会均等の確保と全国的な一定水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的なそれにとどめられるべきものと解しなければならない。」(旭川学力テスト訴訟最高裁大法廷判決)。 よって,国家や地方自治体の積極的関与を期待するとする『つくる会』の見解は,教育基本法10条及び憲法23条(学問の自由)並びに憲法26条(教育を受ける権利)の解釈を誤っている。
 教育の目的は,真理を愛する国民の育成にあり(教育基本法1条),教育内容の決定を真理と離れて多数決で決めること自体不合理である。
 『つくる会』は地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条6号の「教科書その他の取扱いに関すること」という条項を根拠に教育委員会に教科書採択の権利があるとしているが,この条項は文字通り教科書の取扱いに関する事務を教育委員会が行うことを規定しているにすぎず,採択については触れていない。
 また,この条項は2001年以前から存していたものであり,それ以前は,教員中心の選定委員会が候補教科書を決め(絞り込み),教育委員会が最終決定していたのである。教員は各教科について大学や教育現場において必要な研究・研鑽を積んだ教育の専門家であり,子どもに直接授業を行う教員が教科書を選ぶのが,最も自然である。
 教育委員会におかれては,教員をはじめとする市民各層の意見を十分に聞いたうえで,真理と正義を愛する国民の育成(教育基本法1条)のためにふさわしい教科書を選択されるよう切に願う次第である。

斉藤道俊 2005/05/25

 


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