弁護士になり半年が経過した。 まだまだ扱っている事件の数は少なく,どれも印象に残っているが,最初に担当した国選弁護事件は,その中でも特に印象に残っている。
窃盗の事件だった。 被害者が数人いて,私は身柄を拘束されている被告人に代わり,被告人の家族から預かった現金を手に,各被害者の方の自宅に被害弁償に赴いた。
被害者の中に,高齢の女性の方がいた。その方は数万円の被害に遭っていた。年金で生活されている方にとって,決して少ない額ではない。
家に到着すると,その方は,「ようこそ」と,優しく私を迎え入れてくれた。家にお邪魔すると,中にはその方以外誰もいない。一人暮らしだった のだろうか。
その日は,他にも被害弁償に回らなければならなかったため,私は早速,被害者の方に謝罪し,預かった現金を手渡した。受け取ったその女性は,「弁護士さんのおかげで,盗まれたお金が返ってきました。ありがとうございます。ありがとうございます。」と深々と頭を下げ,何度もお礼を 言ってくれた。私は盗まれたお金を返すという,当然のことをちょっとお手伝いしただけなのに。ここまで被害者の方に喜ばれて,申し訳ない気分 と,それ以上に心が暖まるような感じを受けた。
「弁護士はなぜ犯罪者を弁護するのか」と思われる方もいるかもしれない。しかし,私は,この最初の国選弁護事件を通して,真摯に弁護活動を行 えば,それは被告人のためになるのは当然,被害者の方のためにもなるということを実感した。
その被害者の方は,僕に「私には犯人の人がそれほど悪い人ではないと思うんです。だって,一度は盗んだとは言え,ちゃんとお金を返してくれた んですもの。私がそう言っていたと伝えてもらえませんか。」と言った。私は,被告人に対して,被害者からの言葉を伝えた。
被告人が今でもその言葉を覚えているかはわからない。しかし,私はその言葉をずっと忘れない。
以 上
佐々木涼太 2005/06/10 |