弁護士法人とかち平野
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扶桑社版は憲法の正しい理解を妨げる(公民教科書)

 「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」といいます)が採択を目指している中学校の公民教科書にも,歴史教科書と同様,見過ごすことのできない,数々の問題があります。紙幅の関係で,ここでは2点のみ指摘します。
 1,大日本帝国憲法(明治憲法)下においては国民(臣民と呼ばれた)に主権は認められず,法律の範囲内でしか権利や自由は認められていなかった(言い換えると法律によっていかようにもできた)のであり,「国民には法律の範囲内で権利や自由が認められた。」(扶桑社版)と肯定的に記述することは実態を歪めて伝えるものといわざるを得ません。このことは,明治憲法下においては,思想・良心の自由が認められていなかったこと,「神社は宗教にあらず」という解釈がまかり通り,信教の自由も認められていなかったことからも明らかです。扶桑社版が明治憲法の時代を礼賛することに危険を感じます。
 2,扶桑社版は第3章の冒頭ページで,女の子に「憲法で保障されているからと,自由とか権利とかどんどん主張する人がいるけれど,際限なく許されることなのかしら?」と語らせ,さらに,本文で「全体の調和を考える中でこそ,個人の自由や権利は実現する。」との文章に続けて,「そのような意味で,権利は・・・『国民の不断の努力』(12条)に支えられて行使されなくてはならない。」と記述しています。これでは,基本的人権の保障は国政の上で最大の尊重を必要とする大原則であり(憲法13条),その制限はあくまで例外であること,少数者であっても基本的人権は保障されなければならないという鉄則を理解することはできません。また,憲法12条は「・・自由及び権利は,国民の不断の努力によって,これを保持しなければならない。」との規定であり,絶え間ない人権侵害という試練に不断の努力をもって立ち向かわなければならないことを宣言しているのです(97条も同旨)。全体(すなわち多数派)に調和(遠慮)して,人権を制限されるというものではありません。多数派の横暴を許さないとするのが人権保障の真髄なのです。
 以上のとおり,扶桑社版は子どもたちが憲法を正しく理解することを妨げ,政治権力担当者に都合のいい(コントロールしやすい)国民に育成するための「教化」書と言って過言ではないと考えます。

以上

斉藤道俊 2005/06/27



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