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教育基本法「改正」問題−「愛国心」の要求に反対

 教育基本法は,教育勅語や国家神道に基づく戦前の国家主義,軍国主義の教育が,日本が2000万人ものアジアの人たちの命を奪った先の大戦の原動力になったことに対する痛烈な反省から,憲法との双子として制定された。   
 教育を受ける権利(憲法26条)の本質は,「子どもが一個の人間として,また,一市民として,成長し,自己の人格を完成実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること」にある(旭川学力テスト訴訟の最高裁判決)。決して,国家のためとか国家に有為な人材の育成を目的ないし目標としているものではない。政府が今国会に提出している教育基本法「改正」案の中で,「愛国心」を養うことを教育の「目標」に据えようとしていることは,この点で根本的に誤っている。民主党案も同じ誤りを犯している。
 また,愛国心の要求は,基本的人権の中でも最も重要で人間の人間たる所以とも言うべき思想及び良心の自由(憲法19条)に対する国家による干渉,侵害にほかならない。小泉首相は「内心の自由を侵害するものではない」と胸を張るが,教育の「目標」すなわち「到達点」に掲げている以上,教員はもとより児童生徒の内心にもずかずかと入ってきてしまうことは明らかである。
 政府は国旗国歌法制定の際も強制はしないと約束したが,これを反故にし,現場の多くの教員が処分されている。今回,小泉首相は,教員は職務上の責務(=強制)として児童生徒に対する愛国心指導を行なわなければならないと端的に述べている。それ自体が教員に対する思想良心の侵害であり憲法違反である。学習指導要領も憲法に違反することはできず,教員にこのような責務は存しないというほかない。
 また,教員にこのような強制を行いながら,児童生徒の内心の自由を侵害するものではないというのは余りに形式的な主張である。
 児童生徒が愛国心を持つようにならなければ,教員はマイナス評価をされることになるのであり,マイナス評価されたくない教員は児童生徒の内心に踏み込まざるを得ないのである。先生が内心の自由を侵害されて苦境に立つことを子どもたちはどう思うであろうか。教員への強制は,直接間接に児童生徒の内心の自由に干渉することになることは容易にわかる。
 教育の理念及び目的は,憲法の理想を実現する人間の育成にあるのであり(教育基本法前文,政府の「改正案」前文も同様),学校で基本的人権尊重を教えることができず,子どもと教員に対し人権侵害が行なわれるというのは,余りに悲しいことである。

斉藤道俊 2006/05/28



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